海の史劇 [吉村昭]
日露戦争の日本海海戦を描いた作品と言えば、司馬遼太郎の「坂の上の雲」であるが、この作品は日本海海戦とそこに至るまでのバルチック艦隊の航海を主にロシア側から描いている。
主人公は、ロシア艦隊の司令官ロジェストヴェンスキー提督だ。バルチック艦隊も、第二太平洋艦隊という名前で、終始一貫する。
物語は、艦隊がクロンスタット港を出航するところから始まる。出航した間際から、日本艦隊の影に怯え、アフリカではその暑さに悩まされ、燃料の補給に苦労する。
これだけの大艦隊を率いて、ヨーロッパからアジアまで、大回航を成し遂げたことは、歴史上なく、それだけでも大偉業である。
しかし、日本海海戦は大惨敗で、自身も海戦の初期に怪我を負い、意識不明に陥る。
後半は、日露戦争を終結させるための、小村寿太郎等の奔走を描く。華々しい会戦での勝利はあったものの、日本は決して戦争を続けられる状態になく、ロシア側に大きく譲歩する形でポーツマス講和条約を締結する。強硬姿勢をとるロシア側の態度に薄氷の思いで、交渉を続けるが、やっとのことで条約締結に至った後は、その疲労で病に伏すことになる。条約の結果に不満な国民は、小村寿太郎の自宅に投石をする。
最後は、ロジェストヴェンスキー提督がシベリア鉄道を経由して、帰国するところ。ロシアが反政府勢力により革命に向っていく様子が坦坦と描かれる。ロジェストヴェンスキー提督はロシアで裁判にかけられ、軍籍を剥奪され、寂しい老後を経て、亡くなる。そして、その他日露戦争にかかわった人々の最期を順に語って、締めくくる。
史料に忠実に、時間を追って、坦々と描いて行く、吉村昭の独特の文体が、大航海の悲惨さを甦らせ、日本海海戦の凄まじさが読者に伝わってくる。また、敗者に対する労わりの心も感じさせる。
また、所々で勉強になることがある。捕虜に対する行きすぎた優遇振りは、作者が丹念に史料を調べた中から出てきたことだが、初めて知ったことだ。太平洋戦争時の捕虜の虐待と対比させると不思議な感じがする。当時の日本が、文明国として認められたくて、国際法規を遵守しようとした現れなのだろう。
「海の史劇」は、面白そうですね。
司馬遼太郎の「坂の上の雲」も読んだことがないので、機会があったら2冊とも読んでみたいと思います。
by (2006-10-18 21:37)
lapisさん
比較して見ると、面白いと思います。
by マイケル (2006-10-19 06:46)
うちの曾じいさんは、203高地で戦死しました・・・。
by Baldhead1010 (2006-10-19 09:49)
日本海海戦は、負けてもしかたない。しかし、勝ってしまったから、帝国主義の奈落に堕ちていった。と思います。
by (2006-10-19 17:30)
Baldhead1010さん
乃木大将には、特別な感情をお持ちでしょうね。
by マイケル (2006-10-19 21:07)
thalerさん
でも、負けていたら、ロシアの植民地になって、その後、ソ連の属国になって、社会主義の国になっていたかもしれません。
私は勝って良かったと思います。
by マイケル (2006-10-19 21:10)
第二次世界大戦時の捕虜虐待の歴史も事実と違って語られている可能性もあるのでは?亡くなられた方が多い中、史実を浮かび上がらせるのは容易なことではありませんが、悪いことばかりが誇張され一人歩きしている気がするのです。
by (2006-10-20 09:06)
mimimomoさん
第二次世界大戦についても、正しい歴史を伝えてほしいですね。
by マイケル (2006-10-21 06:30)