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ユトリロ展 [アート]

 なんば高島屋で「没後50年モーリス・ユトリロ展」を見た。見たといっても、何週間も前だ。投稿しようと思ったまま、時間が立ってしまった。投稿する前に、ユトリロの生涯をもう一度調べて見ようと思ったからだ。
 ユトリロというのは、パリの風景を描いた画家というのは知っていたが、どういう人物か、どういう人生を歩んだかは全く知らなかった。でも、展覧会には、絵の展示と同時に、ユトリロの生涯についての解説も掲示してあり、ユトリロの人生についても否応なく知ってしまった。芸術家とその作品は、切っても切れないものだからだ。
 

 パリのモンマルトルの丘には、いくつかの芸術家たちの人生ドラマがある。ユトリロの生涯もまた劇的である。
 ユトリロの母は、本名マリー・クレマンティーヌ・ヴァランドン、後にシュザンヌ・ヴァランドンと名乗るようになる。彼女は、ドガ、ルノアール、ロートレック等画家たちのモデルをつとめていて、多くの画家たちと恋愛関係にあったと言われている。また、彼女自身絵を描くようになる。
 1883年彼女はユトリロを生むが、本当の父親は分からない。ただ、彼を認知したのは、スペイン人のウトリーリョ(フランス語読みでユトリロ)である。
 シュザンヌは、1896年ベル・エ・サンベナ社の副社長ポール・ムジスと結婚し、ユトリロとは別々に暮らすようになる。ユトリロは祖母と二人きりの孤独な生活を送る。
 ユトリロは、アルコールを飲むことを覚え、学校を中退し、職を転々とする。
 ユトリロはますますアルコールにのめり込んで行くが、1901年隣に住む医者のエットランジェがシュザンヌに息子に絵を描くことを勧める。ユトリロは絵の世界で次第に才能を発揮していくが、私生活では1904年に精神病院で治療を受けることになり、その後も入退院を繰り返す。
 1905年21歳の時、彼の作品は画家クロヴィス・サゴや評論家タバランが興味を示すことになるが、値段はまだまだ安かった。
 シャザンヌは、1909年ユトリロの友人の若い画家アンドレ・ユッテロと恋に落ち、シュザンヌとユッテロ、ユトリロの同居生活が始まる。シュザンヌの絵は、女流画家という理由であまり売れなかったが、ユトリロの絵は名声とともに上り調子であった。しかし、3人の生活は窮乏を極めていた。
 ユトリロは売れっ子の画家になり、作品がますます高値で取引をされるようになると、ユッテルはユトリロのマネージャーの役を買って出る。ユトリロが相変わらずアルコールによる騒ぎを起こすことから、窓に鉄格子のついたアトリエに閉じ込め、金蔓としてひたすら制作することを余儀なくする。ユトリロは、孤独と時の流れを待ち、絵葉書を基に機械的に制作を義務付けられる。一方シュザンヌとユッテルは、スポーツカーを買い、運転手も抱えるという豪奢な暮らしを送った。
 ユトリロは晩年1938年未亡人で年上のリュシーと結婚する。結婚生活が幸福であったかどうかは分からない。リュシーは、義父に代わってマネージャー役を引き受ける。リュシーは、今までのように絵葉書を基に制作することを禁じ、自分の作品、人気のある「白の時代」の作品を模写することを要求する。彼女は、ユトリロに水で薄めた葡萄酒を飲ませた。彼の健康を心配してではなく、彼の意識をしっかりと保つためだ。また、彼女は、自分でも絵を描き、ユトリロの絵1枚に自分の絵2点を抱き合わせにして、法外な値段で売ろうとした。まさしく、悪妻である。
 ユトリロの生涯は孤独であり、決して幸福な人生ではなかった。そういう目で、彼の絵を見るとき、何か寂しさを感じる。パリの風景を描いているが、何か暗さが漂う。ユトリロの周りの人間は、彼を利用するだけの人間ばかりだった。彼は機械的に絵を描くだけのロボットだった。彼の絵以上に彼の生涯にショックを受けた展覧会だった。


マリジー=サント=ジュヌヴィエーヴ教会、フェルテ・ミロン近郊
 

ユトリロと古きよきパリ

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  • 作者: 井上 輝夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1985/11
  • メディア: 単行本


ユトリロの生涯

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コメント 10

kan

ユトリロは好きです。
孤独さは絵に現れていますね。
by kan (2006-03-26 22:58) 

マイケル

kanさん
ユトリロ好きな人多いですね。
by マイケル (2006-03-26 23:23) 

ピロリン

今名古屋の高島屋に来ているはずですが、
もう移動したかもしれません。
ユトリロの名前と絵だけは知っていましたが、
ユトリロ自身は孤独で、寂しくて、辛い人生を
送った人だったんですね。
絵を見る目が変わりました。
マイケルさんのおかげで、
ユトリロという一人の画家を知れてよかったです。
by ピロリン (2006-03-27 09:04) 

kaoru

おはようございます。
ユトリロ展に行かれたのですね。
その人の人生と言うのを知ったら
今までと違った視点で作品を見るようになりますよね。
by kaoru (2006-03-27 09:45) 

マイケル

ピロリンさん
ありがとうございます。恐縮します。
by マイケル (2006-03-27 20:53) 

マイケル

kaoruさん
その通りです。
by マイケル (2006-03-27 20:54) 

ユトリロの絵には独特の雰囲気がありますね!
彼のエピソードを聞くたびに、酒を控えなければと思うのですが、なかなか実行出来ません。(苦笑)
by (2006-03-28 02:12) 

マイケル

lapisさんのユトリロ論を聞きたいですね。
by マイケル (2006-03-28 21:04) 

kakora

ユトリロが孤独な人というイメージは持っていました
ユトリロの人生を知って あらため作品をみたくなりました
by kakora (2006-03-31 13:21) 

マイケル

kakoraさん
作者を知ってから、その作品を見ると、よりその作品を知ることが出来ます。
by マイケル (2006-04-01 09:46) 

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